「社員の頑張りに報いるため、
ボーナスや一時金を出しているのに、
チーム全体のモチベーションがどうも上がらない」
「若手にはお金というインセンティブが効くが、
ベテランや幹部層をどう引っ張っていけばいいのかわからない」
組織を率いる経営者やマネージャーであれば、一度はこうした悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。
「成果に対してお金を払えば、人は必ず動くはずだ」という思い込みと、実際の現場で起きる温度差。このギャップは一体どこから生まれるのでしょうか?
前回、「組織が大きくなるほど、韓非子が要る」という話を書きました
組織が大きくなると、信頼や善意だけではほころびる。
だから、人を守るための仕組みとして、ルールが要る。
そういう話でした。
その中で、韓非子のいう「信賞必罰」、つまり良いことしたらご褒美(賞)を与え、悪いことをしたら罰を与える、に注目しました。
ご褒美は、若手には厚く。
罰は、ベテランほど厳しく。
ここまでは、前回書いたとおりです。
ただ、書き残したことがありました。
「賞は若手に厚く」とは言いましたが、ベテランにはどんな賞を与えればいいのか。そして、その賞は、いつまで配り続けられるのか。
今回も、中国古典である「韓非子」の思想を紐解きながら、現代の組織マネジメントにおける「ご褒美(インセンティブ)設計の難しさと罠」について考えてみたいと思います。
罰は簡単で、賞は難しい
信賞必罰は、賞と罰で、難しさがまるで違います。
「罰」は、抑止力として比較的つくりやすい。
ルールを決めて、外れたら止める。前回の馬謖の話も、つきつめれば、この厳しさをどう貫くかでした。
一方で「賞」の設計は、構造的にとても難しいのです。
古代中国で、功績への最大の賞は「土地」でした。けれど、国土には限りがあります。功績のたびに土地を与え続ければ、いつか原資は底をついてしまいます。
現代の組織も、同じ。与えられる「お金」も「ポスト」も、常に有限です。
成果にお金だけで報いようとすれば、組織はその原資を生み続けるために、ひたすら利益を拡大し続けなければなりません。
終わりのないラットレースに、組織全体を巻き込むということです。
罰は、ルールさえあれば配れます。
でも賞は、配るたびに、原資が減っていきます。
同じ10万円でも、価値は同じではない
賞には、もうひとつ厄介な性質があります。
受け取る人の立場で、効果が変わってしまいます。
前回、「賞は若手に光を当てる」と書きました。
これは裏を返せば、同じ賞が、上の層にはもう効かない、ということでもあります。
たとえば「社長賞10万円」を考えてみます。
月収25万円の若手にとって、この10万円は大きい。
「認められた。次も頑張ろう」と、力の起点になります。
でも、同じ10万円を、月収200万円の役員に渡したらどうでしょうか。
その人にとっての10万円は、もう日常の誤差の範囲です。
あってもなくても変わらない。
つまり、ベテランに同じような「賞」を与えたとしても、恩賞としての機能が消えてしまいます。報酬や地位がすでに十分な層には、一律の金銭インセンティブは効かなくなります。
「賞は若手に」が正しいのは、ここに理由があります。ただ、それは同時に、「では、幹部には何を渡すのか」という宿題を残していたのです。
お金以外の「賞」を、どう用意するか
では、上の層には、何を賞とすればいいのでしょうか。
ぼくは、お金やポスト以外の「無形の賞」を、組織の中で定義することだと考えています。
たとえば、大きな裁量。
新しい挑戦や、学び直しの機会。
研究の自由。
あるいは、柔軟な働き方や、続けやすい環境。
医療の現場でも、給与アップだけでなく、この「働きがい」や「裁量」をどう用意するかが、人が辞めずに残るかどうかの鍵になっています。
おもしろいのは、無形の賞は、土地やお金と違って、配っても枯れにくいことです。
裁量を渡しても、組織の原資は減りません。
むしろ、渡した相手が動き出すぶん、増えることさえあります。
有限の賞を奪い合うのではなく、枯れない賞をどう設計するか。
ここが、これからのマネジメントの分かれ目になってきます。
つまるところ、判断軸なんです
前回は、信頼だけではほころびる時期に、ルールが人を守る、という話をしました。
今回は、そのルールの中の「賞」を、どう枯らさずに配り続けるか、という話です。
韓非子が二千年以上前に考えていたことは、いまのぼくたちの組織にも、そのまま刺さってきます。
お金は、悪者ではありません。
若手には、ちゃんと効きます。
ただ、それだけに頼ると、組織はいつか息切れしてしまいます。
賞は、お金だけの話ではない。
そしてこれも、前回と同じで、つまるところ「何を賞とみなすか」という、自分の判断軸の話なのだと思います。
ある意味、自分が憧れている人に認知してもらう。これも一つの賞になります。
承認欲求を満たすと聞くと、聞こえは悪いですが、そもそも社会に貢献するためには、まず自分自身が満たされていなければいけません。
そういった観点から、組織にとってなにが賞なのか?これをリーダーとして考えていくことが、重要になってきます。
あなたの所属してい組織では、上の立場の人に、どんな「賞」が効果を発揮していますか。お金やポストで動かそうとして、空回りした経験はないでしょうか。
よければ、コメントで教えてください。
このニュースレターでは、専門職の組織論やキャリア後半戦について、AIだけでなく戦略的な思考も含めて、共有しています。賞罰や組織設計の話を続けて読みたい方は、ぜひ登録しておいてください。



おさるぽんさん、
はじめまして!信賞必罰の賞が難しい話、面白そうですね。良い賞の形、すぐには思い浮かびませんでした。同じSubstackで発信する仲間として、ぜひ応援させてください。これからの投稿も楽しみにしていますね。また来ます!
成果への報酬をお金だけで解決しようとすると、組織は利益を拡大し続けなければ破綻するという、インセンティブ設計の構造的な罠が非常に分かりやすく示されていて、身につまされる思いがしました。
古代の「土地」と同じように、原資が限られているものを配り続けるマネジメントの限界を自覚することは、組織の息切れを防ぐためにとても大切な考え方ですね。