医療DXと聞くと、まだ少し遠い話に聞こえるかもしれません。
マイナンバーカード
標準型電子カルテ
電子処方箋
言葉だけ見ると、行政が進めている大きなシステム改革に見えます。
でも、現場で働いている医師の感覚から言うと、これはかなり身近な話。
ぼくは2017年から3年半ほど、カナダの病院で働いていました。
カナダはアメリカのような民間保険中心の医療ではなく、日本に近い公的医療保険の仕組みがあります。ぼくがいたオンタリオ州では、OHIPという公的医療保険の仕組みがあり、患者さんには個別の番号が割り振られていました。
この番号をもとに、医療情報がかなり共有されていました。
もちろん、日本とカナダでは医療制度も文化も違います。
単純に比べることはできません。
それでも、当時のぼくが強く感じたのは、
「医療情報がつながっていると、現場はこんなに助かるのか」
ということでした。
情報がつながるだけで、診療はかなり変わる
患者さんがいつ、どこで、どんな検査を受けたのか。
その結果はどうだったのか。
どんな薬を処方されているのか。
入院や外来のサマリーはどうなっているのか。
こうした情報は、カナダでは日常診療の中で、普通に確認していました。
前の病院で検査をしているから、うちではやらなくていい。そんな意思決定も普通に行われていました。
みなさんも、紹介された先の病院で、同じ検査を繰り返し行われた経験はあるハズ。あれは、検査のデータや結果はあくまでも、各医療機関の所有物であり、患者さんにデータが帰属していないからなんですよね。
めちゃめちゃ無駄に感じてしまいますが、システムや制度がそうなっていないので、現時点では仕方がないのかもしれません。
日本では2020年頃から、マイナンバーカードやマイナポータル、オンライン資格確認の話が広がってきました。
ぼくはその流れを見て、基本的には進めた方がいい派です。なぜなら、患者さんの情報が医療機関ごとに分断されていると、無駄も多いし、現場も困る。
たとえば、産婦人科ではこういうことがあります。
生まれた時に心臓に病気があって、手術を受けた女性が、大人になって妊娠する。
日常生活には問題がない。
でも、妊娠や出産に耐えられるのか。
帝王切開や無痛分娩を安全に行えるのか。
その判断には、子どもの頃にどんな手術を受けたのかという情報が必要になります。
患者さんの記憶だけに頼る医療には限界がある
本人は覚えていない。
親も詳しく覚えていない。
場合によっては、親がすでに亡くなっている。
手術した病院も分からない。
そうなると、出身地から病院を推測して問い合わせるようなこともあります。
これ、本当に大変なんです。そして何より、患者さんにとっても不安です。
医療情報は、患者さんの記憶だけに頼るには重すぎるんです。
厚生労働省の医療DXのページを見ると、医療DXは単なる電子化ではありません。
保健、医療、介護で発生する情報を、クラウドなどの共通基盤を通じて活用し、より良い医療やケアにつなげる構想です。
オンライン資格確認
電子カルテ情報共有サービス
標準型電子カルテ
電子処方箋
予防接種事務のデジタル化
介護情報基盤
医療情報の二次利用
かなり広い範囲が対象になっています。
DXは、紙をなくす話ではない
ここで大事なのは、DXは「紙をデジタルにすること」ではないという点です。
今ある仕組みをそのまま電子化するだけなら、ただのデジタル化です。
DXは、その先にある医療の形を変えることです。
患者さんがどの医療機関にかかっても、必要な情報が必要なタイミングで届く。
医師が過去の重要な病歴を見落としにくくなる。
薬の重複やアレルギー情報を確認しやすくなる。
介護や予防接種、研究にもつながっていく。
そう考えると、医療DXは医療者の業務効率化だけの話ではありません。
患者さんの安全に直結する話です。
もちろん、課題はあります。
システム導入にはお金がかかります。現場の業務フローも変わります。
データをどう守るのかという問題もあります。
そう考えると、新しい仕組みに抵抗感を持つ人がいるのも自然です。
国の方向性が決まったら、現場も準備した方がいい
ただ、国の方向性としては、もう医療DXに進むことはかなり明確です。
医療DX推進本部も設置され、2030年に向けた工程表も出ています。
であれば、医療機関側も「様子見」だけではもったいないと思います。
行政は新しい仕組みを進めるとき、最初は補助金などで導入を後押しします。
そして、ある程度広がると、それが標準になっていきます。
早く動くほど、自分たちの現場に合った形で取り入れやすい。
逆に遅くなるほど、導入コストは下がるかもしれませんが、失うものもあります。
ぼくは医療DXの専門家ではありません。
制度設計に関わっているわけでもありません。
それでも、海外の医療現場を見て、日本の現場でも困りごとを経験してきた立場から言うと、医療情報がつながる未来には大きな意味があると思っています。
医療DXは、目の前の患者さんを守るための話
患者さんが自分の病歴を全部覚えていなくてもいい。
でも、医師が必要な情報にたどり着ける。
医療機関同士がもっと自然につながる。
それだけで救われる場面は、かなりあります。
医療DXは、行政資料の中だけにある話ではありません。
目の前の患者さんを、もう少し安全に診るための話です。
ぼくはそう捉えています。
あなたは医療DXについて、どう感じていますか?
現場で困っていることや、期待していることがあれば、ぜひ返信で教えてください。
今後の記事でも、医療DXと現場の関係について考えていきます。



カナダの病院での勤務経験があるんですね👀
すごいです。
私は、まだ海外勤務経験ないですが、なんとか50歳までに実現させたいです。
「医療情報は患者の記憶だけに頼るには重すぎる」という言葉に、非常に納得させられました。
医療機関ごとに情報が分断されていることで生じる重複検査の無駄や、過去の正確な病歴が追えないリスクは、現場の大きなボトルネックです。単なるペーパーレス化(デジタル化)の枠を超え、患者さんの安全を担保するための共通基盤として医療DXを捉える視点こそが、今まさに求められていると感じます。