「チクッとしますよ」と言われた瞬間、体が少しこわばった経験はありませんか。
点滴や採血の前に、多くの医師や看護師がこう声をかけます。
「ちょっとチクッとしますよ」
もちろん、相手を驚かせないための一言です。
心の準備をしてもらうための、親切な声かけでもあります。
ただ、その言葉を聞いた瞬間、頭の中には「針が刺さる痛み」が浮かびます。
良かれと思って選んだ一言が、相手の感じ方を先回りして決めてしまうことがあるのです。
これは医療だけの話ではありません。
問いの中に入れた一つの言葉が、相手の答えだけでなく、記憶そのものまで変えてしまうことがあります。
「激突」という一語が、なかった破片をつくる
そのことを示した有名な心理実験があります。
参加者に自動車事故の映像を見せたあと、車の速度を推定してもらいました。
一方には、車が「激突した」とき、どれくらいの速度だったかと聞く。
もう一方には、車が「ぶつかった」とき、どれくらいの速度だったかと聞く。
すると、より強い表現を使った質問を受けた人のほうが、速い速度を答えました。
さらに1週間後、映像には存在しなかった割れたガラスについて尋ねると、「激突」という言葉を聞いた人たちのほうが、ガラスを見たと答えやすくなりました。
問いは、記憶の倉庫から答えを取り出すだけではありません。
質問に含まれた言葉が、出来事のイメージをあとから組み替えることがあるのです。
だから、問いを立てる側は、自分が欲しい答えを問いの中に埋め込んでいないかを確かめなければなりません。
痛みを伝える言葉が、痛みを強くすることがある
麻酔の現場でも、似たことが起こります。
2010年に発表されたハーバード大学からの研究では、背中から麻酔を受ける妊婦さん140人を、皮膚の局所麻酔をするときの声かけによって二つのグループに分けました。
一方には、「大きな蜂に刺されるように感じる。ここがいちばんつらいところ」と、痛みを強く予告する言葉(注:bee stingは欧米人的にはチクッとする感じらしい)。
もう一方には、局所麻酔でその場所がしびれ、処置を楽に受けられるという安心を中心に伝える。
その結果、安心を中心にした声かけを受けた人たちのほうが、答えた痛みは小さくなりました。
言葉だけで痛みが消えるわけではありません。
しかし、何を予告し、どこへ注意を向けてもらうかによって、主観的な体験は変わり得ます。
説明を減らすのではなく、痛みの予告を減らす
ぼくは点滴をするとき、「チクッとしますよ」ではなく、「点滴をしますね」と伝えます。
背中から麻酔をするときも、「麻酔をしますね」と声をかけます。必要に応じて、ゆっくり深呼吸してもらいます。
何も言わずに突然処置をするわけではありません。
これから何をするのかを伝え、心の準備をしてもらう。ただし、その瞬間に「痛い」「刺す」といったイメージを必要以上に大きくしない。
必要な説明や同意を省くこととも違います。リスクは事前に誠実に説明したうえで、処置の場面では安心して受けられる言葉を選ぶということです。
問いでも同じです。
「やっぱり大変でしたよね?」と聞けば、相手は「大変だった」という枠の中で答えやすくなります。
「そのとき、どう感じましたか?」と聞けば、こちらが予想していなかった答えにも開かれます。
問いの最後に「?」をつけただけでは、問いになりません。
大切なのは、どんな答えが返ってきても、本気で受け止める準備があるかです。
あなたがふだん使っている声かけの中にも、「相手を安心させるつもりで、逆に身構えさせている言葉」があるかもしれません。
思い当たる言葉があれば、ぜひ返信で教えてください。
次回は、一つのテーマから何通りにも問いを広げる方法について書きます。




良かれと思って選んだ一言が、相手に先入観を与えたり身構えさせたりするというお話、とても心に響きました。
私は普段、子どもや周りの人に対して「きちんとできてるね」や「ちゃんとできてるね」と言ったあとに、しまったと思うことがあります。認めているつもりでも、暗に自分の常識や理想を相手に投影してしまっているのではないか、とこの記事を読んでハッとしました。相手を自分の基準に当てはめないよう、もっと素直な言葉をかけたいと思います。
献血でチクッとしますねと言われるとめちゃくちゃ力入りますね💦
良く、力抜いてくださいと言われますね!
深呼吸してください言われるとわかっていても気持ちが和らぎますね‼️