日本では、6時間寝ると「ちゃんと寝ている人」扱いされる
日本人は、本当に眠らない。しかも、ただ眠らないだけではありません。
「6時間寝れば十分」と思っている人が多いです。
これ、冷静に考えると不思議です。
どこから来たのでしょうね。6時間睡眠という基準。
ぼくの周りでも、6時間以上寝ているというと、
「よく寝ていますね」
という反応になることがあります。
でも、6時間は、そんなに長くありません。
むしろ、成人の睡眠時間としては少なめです。
米国睡眠医学会は、成人は健康のために毎晩7時間以上眠ることを推奨しています。National Sleep Foundationも、18〜64歳の成人は7〜9時間、65歳以上は7〜8時間を推奨しています。
つまり、国際的な目安で見ると、基本は7時間以上。8時間寝ても、別に寝すぎではありません。ここが、まずズレています。
日本では、6時間寝ると「ちゃんと寝ている人」扱いされる。でも、世界標準で見ると、6時間は「足りていないかもしれない側」です。このズレは、けっこう深い問題だと思っています。
厚生労働省の「健康づくりのための睡眠ガイド2023」でも、成人については「6時間以上を目安として必要な睡眠時間を確保する」とされています。
ここも誤解しない方がいいです。
これは「6時間で十分」という意味ではありません。「少なくとも6時間以上は確保しましょう」という話です。
しかも、睡眠時間だけではなく、
・日中に眠くならないか、
・朝起きたときに休めた感じがあるか、
・生活に支障が出ていないか
を見る必要があります。
6時間寝ている。でも、昼間に眠い。
午後になると集中力が切れる。
休日に寝だめしないと回復しない。
運転中や会議中に眠くなる。
それなら、足りていない可能性があります。
6時間が“普通”に見えてしまう理由
では、なぜ日本人は6時間で足りると思ってしまうのか。
理由は、いくつかあります。
まず、みんなが6時間を目標にしているからです。
周りの人が、
「昨日は5時間しか寝ていないです」
「今日は6時間寝られました」
「週末は少し寝だめしました」
みたいな生活をしている。
そうすると、6時間睡眠がひとつの達成ラインに見えてきます。
5時間台は少ない。
6時間ならまあまあ。
7時間はよく寝ている。
8時間は寝すぎ。
こういう感覚が、社会の中にできてしまっています。
でも、本来は逆です。
8時間は普通。
7時間が最低ライン。
6時間は睡眠不足。
そう考えた方が自然です。
でも、日本ではその感覚が共有されていません。
なぜか。
みんな、やりたいことが多すぎるからです。
仕事があります。
家事があります。
育児があります。
勉強があります。
副業があります。
SNSがあります。
ネトフリがあります。
ゲームがあります。
ぼく自身、AIを触っていると、普通に時間が溶けます。
「あと少しだけ」と思っていたら、30分、1時間がすぐに消えます。
仕事も楽しい人にとっては、睡眠は簡単に削られます。
遊びも楽しい。
仕事も楽しい。
スマホも楽しい。
すると、睡眠は最後に残った時間に押し込まれる。
これは構造的に起きています。
そしてもうひとつ、日本は昼寝しやすい国です。
東京に住んでいると、電車で寝ている人をよく見ます。
通勤電車でうとうとする。
昼休みに机で寝る。
新幹線で寝る。
カフェで少し目を閉じる。
日本は治安がいいので、それができてしまいます。
財布やスマホを持ったまま、電車で寝ても、まあ何とかなる。
もちろん危険がゼロという意味ではありません。
でも、世界的に見ると、かなり特殊な環境だと思います。
夜の睡眠が足りない分を、日中のうたた寝でごまかせてしまう。
これが、6時間睡眠を成立させている面があります。
本当は夜に7〜8時間寝た方がいい。
でも、通勤電車で20分寝た。
昼休みに15分寝た。
帰りの電車でまた寝た。
だから、何とか一日が終わる。
これで回ってしまうんですよね。
でも、回っていることと、調子がいいことは違います。
ここを混同するとヤバいです。
運転が苦手なのではなく、ただ眠かっただけでした
ぼく自身、まさにそれでした。
10年ほど前、車で通勤していた時期があります。
高速道路を使うこともありました。
そのとき、運転している途中で、毎回のように眠くなっていました。
本当に毎回です。
高速に乗って、しばらく走る。
景色が単調になる。
すると、まぶたが重くなる。
今考えると、危なすぎます。
でも当時のぼくは、そこまで深刻に考えていませんでした。
「自分は運転があまり好きではないのかもしれない」
「高速道路は単調だから眠くなるのかもしれない」
そんなふうに思っていました。
その後、カナダで生活する機会がありました。
カナダでは、日本より夜が早い感覚がありました。
もちろん地域や家庭によります。
でも、ぼくの周りでは、夜9時ごろには寝る準備をする人も普通にいました。
ぼく自身も、英語で生活する疲れもあって、自然と毎日8時間くらい眠るようになりました。
すると、ある日ふと気づきました。
「あれ、日中に眠くならない」
「やろうと思ったことに、ちゃんと取り組める」
「集中力が落ちにくい」
そこで初めて、自分が長いあいだ寝不足だった可能性に気づきました。
日本に戻ってから、また車で通勤することがありました。
でも、そのときは全然眠くならなかったんです。
同じように運転しているのに、全然違う。
そこで分かりました。
ぼくは運転が嫌いだったのではありません。
ただ眠かっただけでした……
睡眠不足は、本人がいちばん気づきにくい
こういう人、かなり多いと思います。
本人は「自分はこういう体質です」と思っている。
でも、本当は寝不足の状態に慣れているだけです。
日中眠いのが普通。
午後に集中力が落ちるのが普通。
会議中に眠くなるのが普通。
朝起きても疲れているのが普通。
そう思ってしまっている。
でも、それはただの寝不足かもしれません。
怖いのは、睡眠不足は本人が気づきにくいことです。
毎日少しずつ集中力が落ちる。
毎日少しずつ判断力が落ちる。
毎日少しずつ感情が荒くなる。
毎日少しずつやる気がなくなる。
でも、それが日常になっているので、分からない。
すると、人はこう考えます。
「最近、年を取ったな」
「やる気が落ちたな」
「自分は根性がないな」
「仕事に向いていないのかな」
でも、違うかもしれません。
ただ、眠れていないだけかもしれません。
ここは本当に見落とされていると思います。
特に40代以降は、睡眠不足の影響がかなり出ます。
若いころは、多少無理ができます。
徹夜しても戻れる。
5時間睡眠でも何とかなる。
数日がんばれば取り返せる。
でも、年齢を重ねると、そうはいきません。
回復力が落ちます。
集中力が落ちます。
感情の安定も落ちます。
意思決定も雑になります。
運動する気力も落ちます。
食事も乱れます。
そしてまた睡眠が悪くなる。
まさに、悪循環……
この状態で「もっとがんばろう」としても、きついです。
スマホの充電が10%しかないのに、重いアプリを何個も動かそうとしているようなもの
動くには動きます。
でも、遅い。
熱くなる。
すぐ落ちる。
人間も同じです。
寝ていなくても、仕事はできます。
メールも返せます。
会議にも出られます。
家事もできます。
育児もできます。
でも、それは本来の自分ではないかもしれません。
「睡眠障害」を相談しやすい時代に入った
6月1日から、医療機関が広告できる診療科名として、「睡眠障害」が追加されました。正確には、「睡眠障害内科」「睡眠障害精神科」など、内科や精神科などと組み合わせて標榜できるようになった、ということです。
これは、地味ですが大きな変化です。
今まで、睡眠の悩みはどこに相談すればいいのか分かりにくかったんですよね。
眠れないなら心療内科なのか。
いびきなら耳鼻科なのか。
無呼吸なら呼吸器内科なのか。
不安が強いなら精神科なのか。
単なる生活習慣の問題なのか。
本人にも分からない。
周りにも分からない。
だから、多くの人が放置してきました。
「眠れないです」と近所のクリニックで相談すると、軽い睡眠薬を出されて終わる。
そういうケースもあったと思います。
もちろん、薬が必要な人はいます。
薬で助かる人もいます。
でも、睡眠の問題は薬だけで解決するものではありません。
生活リズム
運動
カフェイン
アルコール
スマホ
ストレス
いびき
無呼吸
仕事の時間
家族の生活リズム
こういうものが、全部絡みます。
だから本来は、まず睡眠衛生を見直す必要があります。
寝る時間と起きる時間を整える。
朝に光を浴びる。
日中に体を動かす。
夕方以降のカフェインを控える。
寝る直前のスマホをやめる。
寝酒をしない。
寝室の光、音、温度を整える。
こういう基本をやったうえで、それでも眠れないなら医療に相談する。
この順番が大事です。
「眠れないからすぐ薬」ではありません。
「薬は悪だから絶対に使わない」でもありません。
必要な人が、必要な診断と治療につながる。
その入口が見えやすくなる。
今回の診療科名の追加には、そういう意味があると思っています。
まず2週間、寝る時間を先に決める
では、ぼくらは今日から何をすればいいのか。
難しく考えなくていいです。
まず、普段より2時間早く寝てください。
いきなり2時間は難しいなら、1時間でもいいです。
とにかく、睡眠を予定の最後に置かない。
先に寝る時間を決める。
仕事やスマホや動画は、余った時間でやる。
順番を変えるんです。
「寝られないです」
と思うかもしれません。
でも、まず布団に入る。
スマホを遠ざける。
部屋を暗くする。
寝る準備に入る。
これを2〜3週間続けてみてください。
1日では分かりません。
2日でも分かりません。
でも、2〜3週間やると、差が見えてきます。
朝のだるさはどうか。
日中の眠気はどうか。
午後の集中力はどうか。
イライラはどうか。
運転中の眠気はどうか。
仕事のミスはどうか。
そこを観察してください。
もし7〜8時間寝る生活をして、明らかに調子が良くなるなら、それが本来のあなたです。いままでのあなたは、パフォーマンスが低かったのではありません。やる気がなかったのでもありません。ただ、眠れていなかっただけです。
ここに気づけると、人生の見え方が少し変わります。
日本では、寝ないことがどこか努力の証明みたいに見えます。
夜遅くまで働く人は努力している。
睡眠を削る人が成果を出している。
忙しい人が価値のある人に見える。
でも、ぼくはもうその考え方は古いと思っています。
眠らずに働く人が偉いのではありません。
きちんと眠って、よい判断をして、安定して成果を出せる人の方が強いです。
睡眠を削ると、短期的には時間が増えます。
でも、日中の集中力や判断力を失っているなら、あまり意味がありません。
しかも、その損失に本人が気づけない。
ここが一番怖いです。
寝ることは、サボることではありません。
寝ることは、働く力を取り戻すことです。
寝ることは、人生の質を取り戻すことです。
たぶん多くの日本人は、自分が本来どれくらい元気に働けるのかをまだ知りません。
6時間で十分だと思っている人ほど、一度疑ってみてください。
本当に足りているのか。
ただ慣れているだけなのか。
本当はもっと集中できるのではないか。
本当はもっと穏やかに過ごせるのではないか。
本当はもっとよい判断ができるのではないか。
まずは2週間でいいです。普段より早く寝てみてください。
あなたが失っていたのは、やる気ではないかもしれません。
年齢のせいでもないかもしれません。
ただ、睡眠だったのかもしれません。
しっかり眠ることも、大切な生存戦略のひとつです。
あなたは、普段何時間くらい寝ていますか?
6時間で足りていると思っている方ほど、まず2週間だけ、いつもより30分から1時間早く寝てみてください。
変化があったら、ぜひコメントで教えてください。
次回は、アラフィフのための睡眠を増やす考え方について書きます。
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「自分は運転が苦手なのではなく、ただ眠かっただけだった」という過去の気づきに、非常に深い本質を感じました。私自身もかつて「6時間で大丈夫」と思って生活していた時期がありましたが、日中の強い眠気やパフォーマンスの低下に直面したことで、自分には7時間の睡眠がどうしても必要なのだと体感したことがあります。社会の「寝ないことが努力」という魔法を解き、パフォーマンス低下の損失に気づけない状態から抜け出すこと。睡眠を予定の最後に置かず、人生の質を取り戻すために実直に時間を整えることの大切さを教わりました。