出向、転勤、留学、海外勤務。
20年以上この世界で働いていると、何か一つくらいは経験したことがあるのではないでしょうか。
居場所を確保したまま、別の場所に移れる。
これは、キャリアを考えるうえでも、大事なポイントになります。
でも、出向して2年で戻るつもりが、戻る2ヶ月前に「戻れない」と決まったら。
あなたなら、どうしますか?
キャリアの後半戦に入ると、こういうピンチは、決して他人事ではなくなります。
長く所属してきた組織が、ある日、自分の居場所ではなくなるかもしれない。
その可能性が、ふと頭をよぎる瞬間です。
──実は今、それが起きているのは、ぼく自身です。
たった10分の電話で、15年来の信頼が崩壊
大袈裟な話ではなく、ほんとうにそんなことが、ぼくの身に降り注ぎました。
戻ったときのポジションについて出向元の上司に電話したところ、途中から目が三角になった、ガチャっと電話を切られる。慌ててメッセージをしたけど、「さっき話したことが全てです。話すことはありません」と冷たく返信。
(これは、少し時間を置いてから話せばいいか……)
そう思って、翌朝に謝罪のメールを送って、「少し整理してから、改めて連絡します」とメッセージを伝えました。
上司からの返信はなく、ぼくもどうしようかなぁと軽い気持ちで考えながら過ごしていたら、メール送信から4日後。突然、上司からLINEが。
『復職には及びません。長年に亘りありがとうございました。』
????
あれから、たった4日だよ?
怒っていたとはいえ、なんで突然?
そんな疑問符が頭の中をぐるぐると回ってしまい、思考停止状態に。
数日経ってから、その現実に対して向き合える様になりました。
でも、その間、大人気もなく、アラフィフのおっさんが号泣。
出向元のことや、自分のこれまでのキャリア、そしてこれからのこと……
細かいことは端折りますが、結局この後、膝を突き合わせて面談をしたけど、15年以上お世話になった職場に、戻れないということが決まりました泣
落ち込んでいたぼくに、救いの電話が来た
数日して、ようやく現実と向き合えるようになったとき、一本の電話がかかってきました。
15年来の友人からでした。
10年前に起業した、8つ上の彼です。
ぼくの状況を知るなり、彼は真っ先にこう言いました。
「お金や仕事に困っているなら、助けるよ」
その言葉に、どれだけ救われたか分かりません。
そのあと、一時間ほど、これからのことを話しました。
不思議なもので、電話を切る頃には、「次は何ができるだろう」と、少し前を向いている自分がいました。
やっぱり、持つべきものは友達だなぁと、心の底から感謝しました。
ビジネスは、競争ではなく循環だった
友人との一時間は、これからの話であり、ビジネスの話でもありました。
「ビジネス」と聞くと、どんな絵が浮かぶでしょうか。
他社を蹴落として利益を最大化する競争。
少しギラついた、お金のゲーム。
そんなイメージを持つ人は、少なくないと思います。
特に医療や行政のような、公共性の高い現場にいると、お金やビジネスを語ること自体に、どこか抵抗を感じる人も多いはずです。
でも、ぼくはビジネスをそうは捉えていません。
組織を続けるためにお金を回し、その恵みを周りの人たちに渡し続ける。
そういう生態系をつくることが、ビジネスだと考えています。
競争ではなく、循環です。
これは、行政の現場で見てきた感覚とも重なります。
新しい薬が承認されるまでの過程には、立場の違う人たちが関わります。
財源を考える国。利益が出なければ続かない企業。医療を提供する病院。安全とアクセスを求める患者さん。
この四者のバランスを、どう取るか。
正しさや正義感だけでは、ここは動きません。
そんな社会の縮図を見た経験が、ぼくを次の挑戦に前のめりにさせたのかもしれません。
プラットフォームは、作らなくていい
では、個人がこの先、何かを始めるとき、どう動けばいいのか。
まじめな人ほど、専門職ほど、ここで一つの罠にはまります。
「全部、自分で一から作らなければ」と考えてしまう、自前主義です。
すでに強い競合がいる場所に、丸腰で入っていく。
基盤を一から作り、限られたパイを奪い合う。
これは、かなり消耗します。
友人と話して再確認したのは、その逆の動き方でした。
すでにうまく回っている彼の仕組みに、素直に乗っからせてもらう。
言ってしまえば、コバンザメ戦法です。
他人の力で楽をしている、という印象があるかもしれません。
でも、ぼくはこれを、相手への敬意がある合理的な戦い方だと思っています。
うまくいっている人の流れに乗せてもらい、相手と競合しない場所で、自分の強みを出す。
限られた力で生き延びるには、これがいちばん理にかなっています。
結構、この合理性が実行できなくて、うまくいかない専門職起業家はたくさんいます。
苦手は、無理に克服しなくていい
この動き方には、一つの割り切りが要ります。
「自分一人で、全部はやらない」という割り切りです。
たとえば、事業を回すマネジメントが足りないと感じたとき。
そこから何年もかけてMBAを取りにいくのが、本当に正解でしょうか?
ぼくの場合は、はっきり見極めています。
自分は、実務をコツコツ回すタイプではない、と。
だから、苦手を克服するのではなく、実務が得意な人と組む道を選びました。
ぼくはビジョンを語る役に徹し、実務は得意な人に任せる。
実際、ぼくが筆頭株主の会社では、ぼくが直接手を動かさなくても、新しい仕事が決まり、事業が回っています(まだまだ零細企業ですが……)。
得意を持ち寄ると、一人では届かない速さと規模で、物事が前に進みます。
これは、能力の話ではなく、組み合わせの話です。
ビジネスでは、自分がやらないことを最初に決めないと、あれもこれもと手を広げてしまった、最終的には何も残らないということが少なくありません。
俯瞰的に割り切って考える。そういったビジネス思考力は、身についても実行に移すのは、なかなか難しいです。
競争を手放すと、見えてくるもの
限られたパイを奪い合う時代はもう終わった、とぼくは思っています。
競争に勝つことよりも、互いの得意を持ち寄り、困ったときに手を取り合える関係をつくること。
そのほうが、やりたいことの実現可能性は、ずっと上がります。
競争ではなく、共創です。
ここで、冒頭の二本の電話を思い出します。
長年の関係だと思っていた相手から、突然、関係を断たれた電話。
そして、苦しいときに、真っ先にかかってきた友人の電話。
人生のピンチは、これまでの人間関係の答え合わせでもある。
今回、それを痛いほど実感しました。
いざというときに手を取り合える人とのつながりは、どんな資格やスキルよりも、静かに効いてくる支えです。
予定通りにいかないキャリアの転機は、終わりではないのだと思います。
むしろ、次の扉が開く合図なのかもしれません。
資格やスキルを磨くことは、もちろん大事です。
でも、それと同じくらい、誰と組めるか。いざというとき、誰に電話できるか。
その関係性を、キャリアの後半戦では、静かに育てておきたいと感じています。
あなたの周りには、いざというときに電話できる相手が、何人くらいいるでしょうか?
よければ、コメントで教えてください。
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長年尽くした組織からの突然の宣告という大きな痛みのなかに、真っ先に手を差し伸べてくれたご友人とのエピソードが深く胸に響きました。
「人生のピンチはこれまでの人間関係の答え合わせである」という言葉には、痛烈なリアルさと同時に救いを感じます。資格やスキルといった外側の武装以上に、いざというときに本音で話し合え、支え合える繋がりの尊さが、ご自身の体験を通して真っ直ぐに伝わってきました。