ずっと描いていた未来が、突然見えなくなってしまったら、どうしますか?
ぼくは麻酔科医でした。特に、妊婦さんの麻酔(無痛分娩とか、帝王切開の麻酔とか)を専門にしてきました。日本とカナダで培って経験や知識を、次の世代に伝えるために、大学病院の教育ポストに戻る。そういう道を、具体的に思い描いていました。
でも、自分ではどうにもできない事情で、その道が途切れてしまいました。
46歳……なかなかのオッサンですww
このまま仕事がなくなるかもしれない。家族をどう支えればいいのか。頭の中が、急に真っ白になる感覚がありました。長く準備してきたレールが、ある日突然なくなる。似たような経験をした方も、いるのではないでしょうか。
異動、出向、組織の方針転換、家庭の事情。
理由はちがっても、描いていた未来が自分の意思とは関係なく消える瞬間は、専門職にも当たり前に訪れます。
こういうとき、多くの人は「次の肩書き」を探してしまいます。
どの資格を取り直すか。
どの業界に移るか。
どのポストを狙うか。
気持ちはよくわかります。実際に、ぼくも最初は、そう考えました。でも、ぼくが至った結論は、「次を探す」ことではありませんでした。
自分の過去の棚卸し
小中学生の頃から今まで、誰にも頼まれていないのに、すすんで引き受けていた役割を、時系列で書き出してみました。
出てきたのは、地味な記憶ばかりでした。
中学のぼくは、いわゆる陰キャ……
剣道部は体力が続かず、一年で辞めています。
そんなぼくが夢中になったのは、大教室委員の委員長という裏方。照明や音響を操作して、暗転のタイミングを計る。
表に立つことはないのに、全体の進行を裏から動かす役割が、妙に楽しかったのです。
大学では、もう一度剣道部に入りました。
ただ、選手としては初心者に近く、目立つ成績は残せていません。
代わりに任されたのが、主務と役回りでした。合宿所の手配、大会の抽選、チームの予定管理。そういう泥くさい調整を引き受けて、チームを裏から支えることに、大きな充実感がありました。
医師になったときも、同じでした。
最初は脳神経外科に憧れていました。スポットライトを浴びて、主役として手術を成功させる。そこに格好よさを感じていました。でも、最終的に選んだのは、地味でよく知られない麻酔科。
麻酔科医は、患者さんから名前で感謝されることは多くありません。それでも、外科医が力を出しきれるように手術全体の安全を裏から支える、チーム医療のインフラ。よく、麻酔科医がいないので手術ができないと言われ、麻酔科医が多い病院は経営が安定する。そんな仕事です。
あなたの「背骨」はなんですか?
こうして並べてみて、ひとつの軸が見えてきました。
ぼくはずっと、目立たなくても裏方として全体を支える、という役割を選んできました。好んでというよりも、自然発生的に周りからそう言った役割を期待され、それに応えてきました。
ただ、ここで、ひとつ気づいたことがあります。
それは、キャリアの一貫性は、肩書きの話ではない、ということ。
多くの人は、資格、肩書き、業界がそろっていることを一貫性だと考えます。でも、本当に一貫しているのは、どんな関わり方を選んできたか、なんだと思います。
所属や職種がバラバラに見えても、無意識に選び続けた役割の中に、その人の本質が残っています。
ぼくはこれまで、学会で講演したり、海外で医者をしたり、行政で政策に関わったり、あちこちに展開する経験を積んできました。ポジティブな言い方をすれば全面展開ですが、うがった見方をすると、まったく軸が見えてきません。
しかし一方で、妊婦の麻酔という一点を深く掘る、一点突破の強みも育ててきました。今回、その一点突破を活かすはずだった場所は、なくなってしまいました。
どちらかが正解だったわけではありません。
全面展開にも、一点突破にも、それぞれ意味がありました。ただ、環境が変わったときに最後まで残ったのは、肩書きでも専門領域でもなく、裏方として支えるという役割の軸でした。
だから、今回のイベントでも、不思議と絶望はありませんでした。
用意されたレールや肩書きは、奪われることがあります。でも、子どもの頃から選び続けてきた役割の軸は、たぶん誰にも持っていかれません。これは強がりではなく、棚卸しをして初めて実感できたことです。
ネガティブな後には良いことが起こる⁈
期待していた未来が突然白紙になると、不運と感じてしまいます。
でも、立ち止まらざるをえない時間は、自分の本当の強みを見直す機会にもなります。
焦らなくていい。
もし今、あなたが予期しない異動やキャリアの断絶に直面しているなら、次の肩書きを探す前に、少しだけ過去を棚卸ししてみてください。
子どもの頃や学生時代、誰に頼まれたわけでもないのに、すすんで引き受けていた役割は何だったでしょうか。
主役ではなかったとしても、自分が心地よさを感じていた立ち位置が、きっとあったはずです。
その軸に気づけたら、先が見えないときでも、次の一歩は少し踏み出しやすくなります。
あなたの場合は、どんな役割を選び続けてきたでしょうか。
よければ、コメントで教えてください。
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キャリアの一貫性を資格や役職といった表面的なものではなく、「自分が無意識に選び続けてきた周囲との関わり方」に見出すというお話に、深く感銘を受けました。
予期せぬ環境の変化で用意されたレールがなくなってしまったとしても、子供の頃から自然と引き受けてきた役割の軸は誰にも奪われないという言葉は、人生の転機に立つ多くの人の救いになると感じます。